社労士と労務士はそれぞれ名前が似ている資格で、仕事内容や働き方などの違いについて詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
社労士と労務士の業務内容は異なる部分があり資格の性質も大きく異なるため、資格取得を目指す際には相違点を押さえておきましょう。
こちらの記事では、社労士と労務士の違いや試験の難易度・合格率などを解説していきます。
社労士・労務士資格の取得を検討中の方に役立つ内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
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社労士は国家資格で労務士は民間資格
社労士は正式名称『社会保険労務士』という国家資格で、労務士『労務管理士』という民間資格です。
このように社労士と労務士は名前こそ似ていますが「国家資格か民間資格か」という大きな違いがあります。
以下で、国家資格と民間資格の違いや社労士と労務士の違いについて解説していきます。
国家資格と民間資格の違い
文部科学省の定義によると、国家資格は「国の法律に基づいて、各種分野における個人の能力、知識が判定され、特定の職業に従事すると証明される資格」です。
つまり国家資格を保有していると法律に基づいて一定の社会的地位が保証されるため、社会的な信頼性が高いと言えるでしょう。
一方で民間資格は「国家資格以外の資格」です。
民間資格は国の法律等に基づいておらず、社団法人などの民間団体が独自に定めた基準に基づき一定の能力や知識を有することを証明しています。
「国の法令に基づいた資格」と「民間団体が独自に認定している資格」を比較すると、国家資格の方が社会的に信用を得やすいと言えるでしょう。
つまり国家資格の社労士は社会保険や労務管理の専門職としての活躍ができますが、民間資格の労務士はあくまでも肩書き的なものとなります。
また労務士の仕事は社労士でもできますが、社労士には「国の法令に基づく独占業務」があるため社労士しかできない業務が存在します。
社労士にしかできない独占業務を労務士の資格しか持っていない人が行うと法律違反になるという点は押さえておきましょう。
社会保険労務士(社労士)とは何か
前述したことからも分かる通り、社労士とは社会保険労務士法に基づく国家資格保持者のことを言います。
労務管理や社会保険のエキスパートであり、社労士しかできない独占業務も存在します。
雇用保険関係や社会保険関係の手続き代行をはじめ、職場環境改善のコンサルティングなどの業務に従事することもあります。
また、社労士資格を持っていると社労士事務所を開業して企業と顧問契約を結んだり事務所が雇用する社労士として各企業を担当したり特定の企業の専門社労士として就職できます。
毎年多くの受験生がいる人気の国家資格の1つですが、その一方で合格率が5~8%程度と非常に低く難関資格と言えます。
労務管理士(労務士)とは何か
労務士とは一般社団法人「日本人材育成協会」や一般社団法人「日本経営管理協会」が認定する民間資格保持者のことをいいます。
労務環境を整備するエキスパートとして労働基準法や労務管理における専門的な知識を持っていることを証明できる資格です。
ただし社労士とは異なり労務士にのみ許されている業務はなく、あくまで「労務管理の知識があることを認定されている」レベルの資格となります。
社労士のような独占業務はできないものの、得た知識を活かして働く企業内の人事部門や福利厚生部門で活躍したいと考えている方におすすめできる資格です。
合格率は公開されていないものの、実際に合格した人から「難易度は比較的低い」と言われています。
社会保険労務士(社労士)の仕事内容
社労士の仕事は雇用保険関係や社会保険関係の事務がメインで、具体的には以下の3つに分けられます。
- 社会保険の手続き代行(1号業務)
- 社会保険関係の帳簿書類作成・提出(2号業務)
- 人事労務管理のコンサルティング(3号業務)
1号業務及び2号業務は独占業務で、社労士のみが業務を行うことを許されています。
社会保険の手続き代行
社会保険の手続き代行とは雇用保険・労働保険・厚生年金等に関連する書類を作成し、管轄する官公署に代行して書類を提出する業務です。
手続きに不慣れな会社は書類作成に多大な時間を要してしまい、いざ書類を提出しても漏れがあり再提出を求められることがあります。
また社会保険関係の手続きが適正に行われなければ法律違反となってしまい、会社の業務や評判に大きく悪影響を及ぼしてしまいます。
そこで、面倒な手続きを社労士が代行することで社員は会社の業務に集中できるようになるのです。
帳簿書類作成・提出
社労士は、社会保険関係の書類作成・提出を行うこともあります。
具体的な作成書類は次のとおりです。
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿の帳簿
- 就業規則の作成代行
以上の書類は、社内でのルールを定めて社員の業務管理を行う上で必要不可欠なものです。
しかし規則として定めなければならない事項や名簿や台帳に記載するべき項目が複雑で、労働基準法の知識がなければ作成が困難です。
行うべき諸手続きを把握していない事業主にとって、書類を作成して関係各所に提出するのは非常に手間がかかります。
そこで、社会保険のエキスパートである社労士が書類作成や提出を代行し事業主の事務負担を軽減しています。
人事労務管理のコンサルティング
人事労務管理は、下記のような業務があります。
- 企業の採用活動
- 入退社に伴う社会保険手続き
- 人材教育
- 従業員の給与や勤怠管理
近年は働き方改革やワークライフバランスが重視されており、この分野における社労士の需要が増加中です。
魅力的な職場を構築するため、社労士は会社からの相談を受け必要な指導を行うコンサルティング業務に携わることがあります。
社員の声をヒアリングし、会社の方針や規則と折り合いをつけながら最適な職場環境を構築することも社労士の大切な仕事です。
社会保険労務士(社労士)になるための方法と試験の難易度
社労士試験は年1回行われ、試験に合格して社労士連合会の名簿に登録することで社労士としての活動をスタートできます。
社労士を目指す方は、合格率5~8%程度の試験に合格するためしっかりと勉強をして試験に臨む必要があります。
社会保険労務士試験を受ける
社労士試験は例年8月第4日曜日に行われます。
また社労士試験には下記の受験資格が設けられており、このうちいずれか1つを満たしている必要があります。
- 大学・短期大学・専門学校・高等専門学校等を卒業していること
- 法人や社労士の補助などの実務経験が概ね3年以上あること
- 厚生労働大臣の認めた国家試験合格
社会保険労務士試験の難易度・合格率
社労士試験の合格率は例年5~8%の間で推移しており、難易度は非常に高いです。
また社労士に合格するための勉強時間は1,000時間程度と言われており、最適な勉強スケジュールを考えて試験対策を進める必要があります。
受験要件をクリアした上で十分な勉強時間を確保しなければならない点は押さえておきましょう。
労務管理士(労務士)の仕事内容
労務士の仕事は社労士の仕事と重なっています。
代行系業務は社労士の独占業務となるため、労務士は人事労務管理のコンサルティングが主な業務となります。
人事労務管理のコンサルティング
労務士が行う人事労務管理は、次の通りです。
- 企業の採用活動
- 人材教育
- 従業員の給与や勤怠管理
労務士には、社員の入社から退職までの流れを適正に管理し適切な教育を行うことが求められています。
また労務士の仕事は社労士と異なり、独立して仕事を企業から受注することは稀です。
基本的に、企業内の労務士資格を保有している社員が人事労務の環境を整備する従事している業務を担当します。
部外から来た社労士よりも、身近な存在として現場や社員の声を汲み取ることができる点が労務士の強みです。
そのため、建設的な意見や本音の意見を集約し勤める会社に対して現場の状況に即したコンサルティングをする役割が求められています。
労務管理士(労務士)になるための方法と試験の難易度
また労務士資格には1級と2級が存在しますが、労務士の受験資格は「20歳以上」のみで、その他の条件はありません。
ここからは、労務士資格の受験方法や試験の難易度について解説していきます。
2級労務士試験を受ける
2級労務士試験の取得方法は次の通りです。
- 公開認定講座の参加による取得
- 全国主要都市で開催される講座に参加し、その講座で行われる資格認定試験に合格すれば認定
- 通信講座による取得
- 郵送されてくるテキストや問題を履修し、通信講座による到達度試験に合格すれば認定
- Web資格認定講座による取得
- 所定の研修をeラーニングで受講し、インターネット上での資格認定試験に合格すれば認定
- 書類審査による取得
- 労務管理に関する3年以上の実務経験と労務管理士資格者からの推薦があれば、審査後に認定
書類審査以外は頻繁に講座が行われており、社労士試験と異なり試験自体も都度行われています。
1級労務士試験を受ける
2級労務士試験合格者は、1級労務士の受験資格が与えられます。
1級労務士になるためには、資格者研修を受講した上で昇級審査試験に合格し1級労務士として認定される必要があります。
労務士試験の難易度・合格率
労務管理士試験の合格率は公表されていません。
しかし試験自体が講座の都度実施されているため、複数回受験することが可能です。
また問題内容としても労務管理の基本的な部分から出題される傾向にあります。
そのためしっかりと講座を受講すれば答えられる問題が大半のため、試験の難易度は易しいと言われています。
社労士と労務士の違いまとめ
社労士と労務士は似ている点もありますが、国家資格か民間資格かという違いや業務内容など多くの違いがあります。
社労士は専門職のため社労士事務所の独立開業も目指すことができ、働き方の選択肢を増やせる点が強みです。
一方労務士は企業内における労務管理の実務能力を証明する民間資格で、職場の内情を理解して建設的な意見ができる強みがあります。
本記事の内容を踏まえ、将来社労士として独占業務の分野で活躍したいと考えている方は社労士資格の取得を目指すと良いでしょう。
一方勤務する企業内で活躍するための肩書が欲しい場合は、労務士資格の取得を検討してみましょう。